『百月姿』より
月と太刀と龍神と

声咲く

月岡芳年の浮世絵『百月姿』

明治の画家、月岡芳年が
月に関わる場面の百景描いた浮世絵の連作。
ご存知の通りの素晴らしき作品群です。

私は、お月さまが大好きなので
最初にこれらの浮世絵の連なりに出会った時は、
その作品力に圧倒されたのは勿論のこと
こうして「月」百景を残そうとした考えに
もう本当にドキュン!なのでありました。

この中には「五条橋の月」という牛若丸の姿や、
かぐや姫など甲乙つけがたき
絵がたくさんあるのですが
今日は特に、この義貞公の一枚について
書きたいと思います。

「稲村ヶ崎のあけぼのの月」
という一枚です。

何を隠そうこの新田義貞(1301年~38年)は
鎌倉幕府を倒した武将です。
源義家の血を受けつぐ武家の名門でありましたが
同じ親戚筋の足利氏よりも低く見られていました。
そんな中、護良親王からの命が出たので、
家名のため幕府に戦いを挑むのです。

義貞は一気に正面から攻め込もうとしますが
幕府の切通し(山を切り開いて通した道)は鉄壁です。
海岸をつたって鎌倉を攻め入ることは困難であるとみた義貞は
守りの浅い稲村ヶ崎からまわって攻め入ることを決意。

元弘3年(1333年)5月
一行、稲村ヶ崎へ到着。
潮目をよみ、
潮が引いて道ができる瞬間はあるのか。

この窮地に、義貞は金の太刀を海中に投じて
海の龍神さまに祈ったところ潮が引いた…というのです。
そして、北条高時を滅ぼすことができたといわれています。

この絵は
そんな伝説的な逸話の場面を描いているのです。

私も、鎌倉には幼い頃からご縁があるので
この湘南の海には深き思い入れがあります。
義経のこと、江ノ島弁財天さまのこと。
ですから十周年の桜月流一門奉納も
鎌倉の鶴岡八幡宮さまにて、お捧げしました。

今年のお正月に発表した
東京芸術劇場シアターイースト
『Metle Opera ミレニアム桃太郎』の
鬼メタル 16歳の天才的ドラマー
堀越一希くんとの出会いにも
実は同じく湘南の海の龍神さまの
深いお守りがあったのです。
ちょっと不思議な話なんですけれどね。

なんとご説明しましょうか
私が一希くんに出会えたのは
こちらの龍神さまのおかげだと私は信じているのです。

新田義貞公の祈りの一場面に戻りましょう。
この太刀の捧げ方を
もう一度、よくご覧ください。

月岡芳年という人、すごい絵師です。
祈りのあるシーンの絵を描く人、
仏師のように彫る人たちは…。
どうして、自分では身体を直接は動かさないでしょうに
こんなに真の力感で祈りをそのままに表現できるのでしょうか。

身体を使う者としては
学ぶべきところばかりです。

この捧げられた太刀と
義貞の身体。

下弦に向かう月が
あけぼの=夜明けに、沈みゆく。

この日は、義経と同じく奇襲なのですね。

潮が引き、
海の道が開けてくださるように
龍神さまに太刀を掲げ
祈り捧げる姿。

何度見ても涙が出そうになります。

大鎧の胴・長側に龍が描かれています。
作者が、後世からもさらに込めた願いでしょうか。

研究者によれば、この年の5月21日未明、
干潮になったとの調べもあり、
伝説の現実性も大いにありそうです。

祈りを込めて、
大切な太刀をお捧げする。
心の形が、そのまま立ち現れる。

美しいです。

私たち、桜月流も
見習いたい 立ち姿 です。

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