バー(魂)
シアターV赤坂
ワザヲグ|ARTS
作・演出 :松木史雄
アドバイザ-:真田広之
桜月流美剱道の第一舞台作品『バー(魂)』。
ここに剣士たちがいる。
彼らがあやつる剣は、金や権力を奪うための道具ではない。
悪に鉄鎚を下すための正義の証でもない。
彼らがあやつるのは、見る者の心をとりこにしてしまう
美しき魔性の刃だ。
剣士たちは、東の空に浮かんだ月の煌煌とした輝きのなかで、
魔性の刃をふりあげる。
月の怜悧な光が刃を銀に染めたとき、
剣士たちはこの世ならぬ高みから舞い降りたかのような
荘厳なたたずまいをあらわにする。
剣士たちの行く手に、
彼らをはばむ者が姿をあらわすわけではない。
たとえ彼らに刃を向ける者があったとしても、
それは剣士たちに忍び寄る邪心の作り出した
幻影にほかならない。
幻影をふりはらうには、
剣士たちの刃は意識の深みに達する鋭さを
持たなければならない。
魔性の剣が鋭さを獲得したとき、
底知れぬ闇をたたえ、氷のように冷えきっていた世界に、
満開の桜が咲く。
月の光を吸いとった桜の花びらからは霊気が放たれ、
剣士たちの心の目を射る。
その刹那、無心となった剣士たちの魂の叫びが
あたりを激しく震わせ、咲きほこった桜の花を、
一瞬にして散らす。
桜の花は永遠にふりやむ気配を見せない。
剣士たちは、やがて剣をふるうことを忘れ、
花の舞に酔いしれたかのようにくず降れると、
ふりつもった花びらにうもれていく。
一面に敷きつめられた桜を見晴らすように、
月が天の頂に達し、宇宙に静寂が訪れる。
そのとき、いずこからともなく刃の音が響き渡り、
瞬時にして丸い月を砕き割る。
月はかけらとなって落下し、
剣士たちのあとを追って、花びらの中に消えていく。
あとはただ、微かな光を宿した月のかけらだけが残される。
桜ふる月のかけら。
作・演出:松木史雄
出演:神谷美保子、松木史雄、清水大輔、石綱寛、神谷昌志、
尾川止則、久保泰介、実近順次、辻丸耕平、徳永秀勝、矢部大
劇場:THEATER V AKASAKA
1996年7月26日(金)・27日(土)
照明:佐藤公穂
音響:秀島正一
衣装:勅使河原恵美
衣装アドバイザー:綱川千枝
舞台監督:富田聡
宣伝美術:株式会社パウル
制作:松田誠
制作協力:岩崎弘子
制作デスク:ネルケプランニング
企画・製作:島田敦子/神谷美保子
企画協力:島田裕巳
アドバイザ-:真田広之
協力:THEATER V AKASAKA
主催:桜月流美剱道